■タイトルと作者
『片想いの牢獄で』ミズタマ作
■どんなテーマなのか?
想っても叶うことのない『片思い』に囚われた女性たちの物語短編集。
■巻数と試し読み
1巻まで
■あらすじは?
エピソード01「光のさすへや」
受験ノイローゼになっている兄から日々、虐待を受けている朝倉比奈子は飼い犬のソラとの散歩が唯一の慰め。兄の命令どおりに部活の美人先輩を映画に誘うのに失敗し、兄からひどく折檻される。
散歩中、ソラが小日向のところに逃げてしまい、知り合う。小日向は同じクラスだったが引きこもりの不登校だったため、そのときまで知らない人だった。
無愛想な男だったが、犬を見つけてやったお礼に「ソラが自分になつくまで」という条件をつけられ、彼の部屋に通うように。
小日向の複雑な家庭の事情を知り、部屋用プラネタリウムの中で自分の悩みを打ち明けた比奈子。行くところがないならうちにくればいい、と居場所をくれる。
兄は比奈子にさらに無理な要求を強いてきた。テニス部の楠先輩を自宅へおびきだすように命令されるが、拒否した比奈子は初めて兄に逆らう。
だが、兄は仕返しに比奈子が大事にしている愛犬・ソラに手をだし、キレた比奈子はフライパンで叩いて小日向のアパートへ逃げ込む。
エピソード02「運命のひと」
コンビニ店長の大蔵航平は、新人の舞子がとても気に入っていた。実家へ帰ると今付き合っている美智子との結婚をせかされ、マリッジブルーに。
相手が決まっているのに、航平はなぜだか舞子と自分が結ばれるはずだ、という直感があった。
舞子が父親から金を無心されているのを見て複雑な家庭なのだと知る。
航平はオーナーからもらったゲーム機をダシに「一緒に遊ぼう」と舞子を誘ってOKをもらい、ふたりきりになるが「思ってもいなかった」舞子の正体を知って・・・
エピソード03「くれぐれ」
恋愛がめんどくさくて手順をすっ飛ばして嫁がほしい、という川野はずっと憧れていた先輩の月島が、妻子ある上司と隠れて付き合っていたことを知ってしまう。
現場を見られてしまった月島は慌てて「なんでもするから誰にも言わないで」と追いすがってきて、ふたりでDVDを見ることになるが・・・
エピソード04「割れ鍋にスカート」
夏帆は仕事なら大丈夫だが、男嫌いだった。住んでいるアパートの管理人が女子力の低い夏帆を心配して、おかずを作ってくれたり面倒を見てくれる。
見た目は誰よりも麗しい女性ーーなのに管理人さんは男性だった。男嫌いの夏帆も、管理人さんだけは平気だ。
夏帆の男嫌いについて、幼いころから母親に「男なんて必要ない生き方をしようね」と育てられ、夏帆は無意識のうちに自分が「女性」であることを否定しながら生きていた。
女らしくなってはいけない。そう思っていたのに仕事先の男性から告白されてしまって・・・
■「光のさすへや」登場人物の紹介
朝倉比奈子:兄から虐待を受けている女子中学生。父は単身赴任、母は教育ママ。柴犬のソラが唯一の慰め。
朝倉(兄):母親からの受験プレッシャーにより溜まったストレスを妹を虐待して解消している。
小日向:比奈子のクラスメイトだが、始業式以来不登校。両親から育児放棄され、一人暮らしの引きこもり。かなり不細工。
■コメント
「光のさすへや」もすごくいいお話なんですが、4話目の「割れ鍋にスカート」が一番のお気に入りです。
エピソードの中では超美人の管理人さんが「男」であることは一言も言っていないのにもかかわらず、夏帆の言動でちゃんと「男性」であることがわかります。
管理人さんがなぜ女性の姿をしているかについては作中で触れられていませんが、すごく優しくて見た目も振る舞いも完全に女性なのにキュンとしてしまいました。
■作品への評価
絵がかわいくて、女性たちがとても魅力的! そしてどのお話に出てくる女性が大きな心の傷を抱えながらも、「人に恋する」気持ちを忘れていません。
打ち明けられないまま、秘めた想いをそっとしまった比奈子。
両親から搾取される人生を歩み、航平の優しさに夢を見てしまった舞子。
上司に片想いしている月島に、片想いをしている川野の切なさ。
女性らしくあることが怖い男嫌いの夏帆の片想いの予感・・・
「片想い」は切なくて、叶わないままのことのほうが多いけれども、人生に彩りを与えてくれるものであると感じさせてくれる作品たちでした。